『世の中で一番不幸なのは、忘れられた女です』 マリー・ローランサン:狂乱の時代と呼ばれた1920年代のパリで画家・詩人として活躍

ゆっくり ゆっくり 意識は薄れ
白昼夢の世界を行ったり来たり
今が昼か、それとも夜か
いつの間にか、子猫の瞳の中に閉じ込められたようで寝心地は良くはない

謎の暗闇に白い扉
寝乱れた髪を、手でとかし
くぐってみましょう 赤い靴

誰もいない暗い部屋
誰かが声をかけて来る 声はするが姿なし
“あなたは誰?”
アリスが尋ねると、すぐそばで声がする
“私は誰でもありません。昔は名前もありましたが、誰も呼ばないので捨てました。”
そして、声は続けます
“私は幸せ競争を負けた者です。
その昔、私は沢山の友人に囲まれていました。
皆とても美しく、そして同じ格好をしていました。それが当たり前と疑うことすらしませんでした。
私達は皆、仲は良くてもお互いがライバルでした。
友達よりもお給料のよい職場、友達よりも華やかな恋人、合コンで友達よりもモテル事、友達よりも新作のバッグや服を・・・友達よりも・・友達よりも・・・
ある日、ゆるふわカールをしようとクシを手にとった時、クシが手からすべり足に当たりました。
その瞬間、私が築き上げてきたモノ全てが崩れたのです。
体はブランドの服と一緒になくなりました。残ったのはこの声だけです。
声だけになった私を、最初こそ恋人や友人・知人は心配しましたが、月日が経つとすっかり私のことを忘れてしまったようです。今は、誰も私のことを思い出してもくれません。”
声はアリスに話します
“この詩をご存知?
捨てられた女よりもっと哀れなのは/よるべない女です/よるべない女よりももっと哀れなのは/追われた女です/追われた女よりももっと哀れなのは死んだ女です/死んだ女よりもっと哀れなのは/忘れられた女です”
(『鎮静剤』の一部 堀口大學訳)

“私は、ほんの些細な衝突で崩れ去るモノで、自分を守ろうと幸せになろうとしていたのかもしれません”
声はそれだけ告げると、消えてしまいました。

アリスは、曲馬団の片目の団長にブランディをあげれば、体を取り戻せる事を教えようと、声を追っていきました
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